千葉県市原市にある出光興産千葉事業所は、115万坪(382万㎡)の広大な敷地を有する、製油所と石油化学工場が一体化された事業所だ。製油所は1963年に竣工以来、今日も石油製品を供給し続けている。製油所は24時間休むことなく稼働し、安全に、かつ安定した石油製品の供給が求められる。首都圏の暮らしを支え、つねに供給の流れを絶やさない努力を続ける製油担当者(プロダクションエンジニア)に「守る」をテーマにインタビューを行った。
2007年入社。製油一課に配属後、装置の運転を担当する交代勤務にて10年、運転計画を行う運転担当を6年経験ののちに2022年から再び交代勤務。原油を処理する最上流となる常圧蒸留装置を始め、複数の装置の操業を担当。また、4直2交代勤務(4班が24時間昼夜2交代で稼働)の直長として8人のメンバーとともに従事している。
出光興産千葉事業所の製油所には、約50基の精製装置がある。原油が精製装置を経由して石油製品となるまでには1日を要する。原油はまず常圧蒸留装置という高さ50mほどの塔内で留分別に分離され、二次処理、品質確認の後にLPG(液化石油ガス)やガソリン、ジェット燃料、灯油、潤滑油などの石油製品になる。「製油一課では、石油製品製造の流れの中で最上流にあたる常圧蒸留装置と、次に処理する段階の装置を運転しています。私たちの装置次第では下流の装置が操業できなくなるということもあり、重大な位置付けにあります。装置は24時間動き続け、点検などの停止期間を除くと年間約330日稼働しています。その間ずっと、人の目で監視しておく必要があります」
「東日本大震災の時には、ガソリンスタンド前の大行列がニュースでも報道されました。私自身も、実際にその状況を目にしました。当時の上司がそのとき、インフラをいかに“正しく”供給し続けることが大切か、ということを話したのを覚えています。“正しく”とは安全に安定して供給すること、正しい管理値の中で収まった品質のものを供給すること。私たち製油課の場合は、ガソリン基材を供給し、ブレンドして製品を出すことです」もしも大きな地震が起きたとき、製油所内の装置はどうなるのか。「震災などの非常時には、自動的に装置が止まるように設計されています。安全性には信頼を置いていますが、現場の人間としては『再び装置を立ち上げなければいけない』という別のプレッシャーを受けることになります。すべての装置が停止した場合には、綿密な計画を立てた上で、運転を開始します。1装置につき2~3日から4日かけて段階的に装置をスタートしていくため、全ての装置が通常通りに稼働するまでには1カ月ほど要します」
「石油製品はガソリンなどの燃料だけでなく、プラスチック製品にも使われます。毎日使う生活雑貨のなかにも、実は原料が当社の製品ということもあるでしょう。そして、自動車に乗ることがなくても、電気はほとんどの人が毎日使っていると思いますが、発電機のタービンを回すためには重油や潤滑油が必要です。また、カーボンニュートラル社会の実現に向けて新エネルギーとして注目されている水素は、石油から出る副生ガスを利用してつくることができます。石油を精製するために必要なので、以前から事業所内では水素を扱っていました。ところが近年はエネルギー事情が変わりつつあり、「水素が欲しい」という要望が出てきています。そこで水素の運搬手段などを考慮し、新規事業として検討する必要が生じてきました。ただ作り続けるだけではなく、以前から使ってきたものをいかに活用するか、というように石油精製のあり方も変化しているように感じます」
「この10年くらいの間に急激な世代交代が進んで、現場の人材育成が急務となっています。私が入社した頃、現場の大多数は50代の方々だったと記憶していますが、現在は20代中心。装置の整備も必要ですが、装置を理解して使う人も育てなければならない。直長という立場に立ってみて、もはや猶予はなく、育成方法を考えながら共に育っていくしかないと考えています」熟練のオペレーターたちが現場を退いていく中でも、操業は毎日続いていく。「私たちの仕事は人々の生活を守ることです。守るためにも今、人を育てることが重要で、育てた人で10年、20年と安定供給をし続けること。もしも困難な状況が起きたとしても、安全と安定操業を守っていきたいと思います」